アジア獣医皮膚科専門医について

アジア諸国の世界的存在感が日々大きくなるにつれ、欧米主導型の世界的安定が新たな局面を迎えているようです。時代に後押しされるかのように小動物獣医療にも新たな波が押し寄せ、本邦では犬や猫がペットとしての脇役から伴侶動物と呼ばれる社会権を獲得し、お隣の韓国や中国においてもここ10年ほどに小動物診療施設の開設制度や生涯教育が急速に整備されつつあります。一方欧米の獣医学は研究・臨床ともにそれぞれ高度に機能した成熟の感があり、各分野で専門性をもった人材の育成やその認定制度も整備されています。本邦においてもこれを追従する動きが活発になりつつありますが、現在単一国家で設置された専門医制度は国際的に認知されず、その標準として北米と欧州を中心とした地域(大陸的)認定制が定着しています。

日本獣医皮膚科学会では1997年より獣医皮膚科専門医制度の設立を検討してきましたが、後進達の飛躍には世界に通用する制度の導入が不可欠であり、アジアを一単位とした専門医制度の設立を目指しました。当初、本邦における学問的基盤の確立とアジア諸国との親善に力点を置き、2002年11月に台湾で第1回アジア獣医皮膚科会議を開催、さらに翌2003年11月韓国で開催された第2回大会にて参加7カ国からなるアジア獣医皮膚科学会Asian Society of Veterinary Dermatology(AiSVD)を設立しました。そしてAiSVDの主たる事業のひとつとしてアジア獣医皮膚科専門医協会 Asian College of Veterinary Dermatology(AiCVD)の設立を掲げました。専門医制度設置に関する最大の懸案は、誰がどのように専門医を承認するかであり、その方法について英国ロンドン王立大学Prof. David Lloydのお知恵を拝借しました。欧州では米国獣医皮膚科専門医協会American College of Veterinary Dermatology(ACVD)を参考として、1992年に欧州獣医皮膚科専門医協会European College of Veterinary Dermatology(ECVD)を設立しました。当時欧州獣医皮膚科学会European Society of Veterinary Dermatology(ESVD)会長であったProf. Lloydを中心とした小委員会は、ESVD名誉会員である米国獣医皮膚科専門医のDr. G. Muller, Dr. R. Kirk, Dr. P. Ihrke, Dr. D. Scottの4名に、卓越した獣医皮膚科学の知識と技術を有する欧州獣医師数名の皮膚科専門医としての適正について書類審査を依頼しました。厳正な審査により「世界が認める欧州獣医皮膚科専門医」が6名指名され、数年後に協会の実務運営に必要な事実上の専門医が試験ないし書類審査にて数名加わり本格的なレジデント教育と専門医試験が運営されるに至りました

2004年夏、われわれアジアにおいてAiSVD設立メンバーのうち7カ国9名が欧州とほぼ同様の経緯をもって皮膚科専門医の書類審査を受ける機会が与えられました。審査はProf. Lloydとともに、彼の指名を受けたオランダ・ユトレヒト大学Prof.T. Willemse,米国カリフォルニア大学のProf. P. Ihrke, そそして米国コーネル大学のProf. D. Scottを加えた4名により実施されました。2004年8月に審査基準(表1)が設定され、同年12月にAiSVD正会員を対象とした公募があり、2005年8月に審査が終了、22日付け公式文書にてCharles Chen(台湾)、岩崎利郎(日本)、永田雅彦(日本)の3名をアジア獣医皮膚科における招待専門医 invited specialistsに認定したと連絡がありました。同年10月16日に東京で開催された第3回アジア獣医皮膚科会議にて、Prof. Lloydより会員に向けてAiCVD発足の経緯と招待専門医 invited specialistsの指名に関する公式の報告がありました。これを受けてAiCVD interim boardが設置され、暫定会長に岩崎利郎、副会長にCharles Chen、総務に永田雅彦が就任したこと、レジデント教育と専門医試験の遂行を目的とした“de facto” appointed diplomate(レジデントシステム設置前に書類にて認定される専門医)を公募すること、その対象はAiSVD正会員であることが公表されました。

AiCVD interim board により、2005年12月にCONSTITUTION and BYLAW for application and recognition of AiCVD “de facto” Specialistが告知され、2年間に日本から4名、他国を含め合計7カ国9名から申請がありました。2008年6月、AiCVD interim board は申請者全員を“de facto” diplomate 候補に指名し、細則に従って2年以内に資格条件(表2)を満たすよう指示しました。締切期日の2010年6月末までに9名中7名から最終申請があり、AiCVD interim boardによる協議を経て、同年7月に日本から西藤公司(東京農工大)と村山信雄(犬と猫の皮膚科)の2名、韓国からTae-Ho Oh(Kyungpook University)とCheol-Yong Hwang(Seoul University)の2名、中国からLin Degui(China Agricultural University)の5名が “de facto” diplomateに認定されました。2011年には公式レジデント教育が始まりました。

皮膚科専門医制度は各科を通じてアジアで初めて実施される事業であり、獣医学あるいは地域の発展に関与する様々な方々のご協力により運営されています。ここに、専門医制度の沿革をご報告申し上げると共に、多大なるご支援とご指導を切にお願い致します。

アジア獣医皮膚科専門医認定協会
Asian College of Veterinary Dermatology

表1. The AiCVD invited specialistsの審査基準

  1. アジアにおける獣医皮膚科学の創始者であること
  2. アジアにおける獣医皮膚科学の発展に研究、出版、講演を通して多大なる貢献をしていること
  3. The Asian Society of Veterinary Dermatology(AiSVD)会員の大多数により妥当性が示されること
  4. アジアで活動しているThe AiSVD 設立会員もしくは正会員であること
  5. 獣医皮膚科学に少なくとも10年間携わっていること
  6. 獣医皮膚科学が少なくとも業務の60%を占めること

表2. The AiCVD “de facto” appointed diplomates の審査基準

  1. 獣医皮膚科学に少なくとも7年間携わっていること
  2. 獣医皮膚科学が少なくとも業務の60%を占めること
  3. 少なくとも第一著者3編、共著3編の科学論文があること
  4. オリジナル研究の学会報告があること
  5. アジアで活動しているThe AiSVD 設立会員もしくは正会員であること

アジア獣医皮膚科専門医について